インクルーシブな企業文化を醸成する3つの取り組み

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Leader, People & Culture ジン・モンテサーノ

自主的に企業を退職する人が急増し、「大量自主退職時代(Great Resignation)」が到来したと言われています。「大量転職時代(Great Reshuffle)」あるいは「大再交渉時代(Great Renegotiation)」とも呼ばれることもありますが、呼び方は何であれ、私たちが働く環境が大きく変化したのは間違いありません。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大によって、ワークライフバランスの見直しが一気に進みました。多くの人にとって在宅勤務が日常となり、出社と在宅勤務を臨機応変に組み合わせたハイブリッドな働き方が主流となっています。LIXILでは、オフィスは業務を行う場ではなく、コラボレーションやコミュニケーションを通じて人と人とがつながる場所であると考えています。

このようなパラダイムシフトが起きる中、誰もが歓迎され、尊重されていると感じることができるインクルーシブな環境を醸成することが求められています。インクルーシブな環境は、高いエンゲージメントと多様性を持つチームを構築することにつながり、これは、急速に変化する事業環境の中で成功するために非常に重要です。

私たちは、COVID-19の感染拡大が始まる以前からインクルーシブな文化の醸成に向けて取り組んできましたが、さらなる注力が必要だと感じています。 LIXILでは、「世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現」という組織としてのPurpose (存在意義)を明確化していますが、これを追求していくためには、私たちが製品やサービスを提供する様々な市場やエンドユーザーを、より深く理解し、顧客志向を徹底する必要があります。徹底した顧客志向を実践しているチームというのは、概して多様性に富んでいますが、組織にインクルージョンを重視する文化がなければ、多様なチームを持続的に構築し、機能させることはできません。つまり、私たちが顧客ニーズを捉え、より理解を深めるためには、インクルーシブな企業文化を醸成する必要があったのです。

インクルーシブな文化の構築は想像以上に複雑な課題ですが、これまでの私たちの経験から、イノベーションや価値創造に大きく寄与することがわかっています。

LIXILでは、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を企業のDNAに組み込むために、次のような3つの取り組みを実践してきました。

1. インクルージョンから始める

LIXILでは、インクルージョンの実現を目指すことで、結果としてダイバーシティの推進につながると考えています。

私たちは誰しも、集団に属したいという欲求があります。真の帰属意識を持つことで、ありのままの自分でいるという自信が生まれ、躊躇することなく自分の考えを共有できるようになります。これは裏返せば、新しいソリューションやアイデアを生み出し、イノベーションを生み出すには、オープンに意見を交換し、さまざまな視点を得ることができる環境が必要ということです。そしてそれが、よりアジャイルで起業家精神にあふれた組織になるための鍵でもあります。

インクルーシブな文化の重要な要素として、心理的安全性の確保があります。従業員は、他者の反応を過度に気にするのではなく、安心して自分の考えを伝え、改善点を提案したり、実験して失敗から学ぶことができる環境が求められます。高い心理的安全性が確保されていれば、自分の気持ちを共有したり、意見を伝えることに対して不安を感じることがなくなり、積極的な働きかけが可能になることで、意欲的に業務に取り組むことができるようになるのです。

LIXILでは、この考え方があらゆる側面に反映されています。私たちは、自分たちの組織をさまざまな文化からなる「巨大文明」と捉え、個々の文化を尊重しています。このような多様性を尊重しながら、私たちがひとつのチームとして働くための基盤となるのが、全社に共通するLIXIL Behaviors(3つの行動)です。「Do the Right Thing(正しいことをする)」「Work with Respect(敬意を持って働く)」「Experiment and Learn(実験し、学ぶ)」という3つの行動が、私たちがどう考え、どう行動すべきかの指針となっているのです。

インクルージョンに関する取り組みの進捗や達成度を測る指標のひとつに、従業員に占める女性の割合があります。女性にとってインクルーシブな環境を作ることができれば、より広範な変革を進めていくための足掛かりになると考えています。

LIXILは長年、男性中心の業界で事業を展開し、男性の比率が高い組織となっていました。日本はLIXILにとって最大かつ戦略的に重要な市場ですが、国内従業員のうち、女性が占める割合は全体の4分の1にすぎず、女性管理職は17人に1人となっています。しかし、社会が多様化し、私たちが製品・サービスを提供する顧客層も多岐にわたります。私たちが革新的で起業家精神あふれる企業となることを目指すためには、現代社会を反映した、インクルーシブな職場環境を構築しなくてはなりません。

現在、LIXILの取締役の30%が女性となっており、これは東証一部上場企業の上位5%に入ります。また、LIXILでは2030年までに、取締役および執行役の男女比を均等にするとともに、グローバル全体の管理職についても、女性比率30%の達成を目指します。

インクルーシブな環境を構築するには、経営陣から現場の第一線を担う従業員まで、誰もが積極的に取り組んでいく必要があります。私たちは人材戦略を通じ、チームをけん引していくリーダーが、共に働くメンバーをより良い方向に導いていくことができるようサポートし、育成していかなくてはなりません。インクルーシブな企業文化の構築に向けて、従業員の理解を高めるため、管理職向けの定期的なワークショップや、全従業員を対象にしたeラーニングプログラムを実施し、インクルージョンの実践を後押ししています。また、人事部門主導ではなく、組織横断的なメンバーで構成されたチームが中心となって、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の取り組みをリードしています。

私たちがD&I に注力するのは、それが社会的に「正しいことをする」ということにつながるからだけではありません。むしろ、それが企業として長期的な成功をおさめるために不可欠だからです。私たちは、インクルージョンや顧客志向の徹底と、イノベーションを創出し、市場のニーズに応える力には、直接的な関連性があると考えています。

2. 従業員の声に耳を傾ける

私たちの願いは、従業員に寄り添う企業として認知されることです。従業員のキャリアを考え、誰もが働きやすく、やりがいのある仕事ができるような職場づくりを目指しています。さらに、従業員が心身の健康を保ち、豊かで充実した生活を送ることができるようウェルビーイングや安全を重視するとともに、LIXILのPurpose(存在意義)に共感し、この会社で働くことに喜びや誇りを感じてもらえるような環境を提供します。

そのため、入社や昇進だけでなく、結婚などのライフイベントに至るまで、従業員にとっての「大切な場面」を中心に据えて、従業員エクスペリエンスを向上させる戦略を推進しています。このような従業員の「大切な場面」に関連する課題に対して、企業がどのように対応するかが、LIXILに対する帰属意識やエンゲージメントに影響を与えると考えているからです。

例えば、インクルーシブな企業文化が構築できていない場合、新しく採用された人が、すぐに職務に慣れることは難しいかもしれません。「お手並み拝見」という言葉がありますが、外部から新しい人材を受け入れ、積極的な教育・育成プログラムでいち早く活躍できるようにサポートするのではなく、まずは相手の能力を遠巻きに見ているという傾向があるからです。

従業員エクスペリエンスを向上させるためには、まず従業員の声に「耳を傾ける」ことが大切です。デジタルプラットフォームを活用し、定期的に意識調査を実施することで、従業員の声に耳を傾け、重要な洞察を得ることで、あらゆる局面で従業員を強力にサポートする能力を高めてきました。そのためには、従業員にとっての重要な場面を見逃すことなく分析し、向上させるためのシステムを設計する必要があります。その結果、管理職がチームメンバーとのつながりを感じやすくなり、それぞれに合わせたキャリア開発の選択肢を用意することができます。

3. 個々の力を引き出す

LIXILでは、オフィスでの服装の自由化をはじめ、指揮命令系統を簡略化し、全社における役職名の簡素化を行いました。どんなに上級職であっても、すべての管理職は、“Leader(リーダー)“という役職名に統一されています。従業員一人ひとりが起業家であり、スタートアップ企業のリーダーと同じような権限と責任をあたえられるという、私たちの考え方がこういった変化に表れています。

LIXILのCEOの信条は、「高い役職にある人だけがリーダーということではなく、誰もがリーダーになる能力を有している」というものです。プロジェクトは必ずしも高い役職にある人が率いるのではなく、最もふさわしい人が陣頭指揮を取れば良いのです。

また、全社的な人材育成プログラムも展開しています。当然と言えば当然ですが、M&Aを経て成長し、世界各国で事業を展開しているLIXILでは、人材開発、研修、リーダーシップ開発のための全社的なプログラムを一元的に設計するということは、これまで行われてきませんでした。しかしながら、従業員の資格、業績管理、人材開発ついて、全社で統一されたプログラムを導入していくことが、従業員エクスペリエンスを高めるだけでなく、LIXILでの有意義なキャリアを築くための鍵になると考えています。

最も大きな変化が起きているのは、国内組織です。日本は、グローバル市場での成長を後押しする資金を生み出すための重要な役割を担いますが、高齢化により国内市場は縮小しているのが現状です。進化する市場のニーズに迅速に対応するためには、従来の年功序列型の雇用モデルを刷新する必要があります。私たちは、実力主義に基づくダイナミックなシステムを導入し、市場や消費者と同じように多様な人材が活躍できるよう取り組んでいます。

2020年、LIXILは国内事業の変革に向け、包括的な人事プログラム「変わらないと、LIXIL」をスタートさせました。年功序列に代わって、透明性の高い実力主義に基づく人事評価システムを導入し、従業員が自身のライフスタイルに合わせて勤務しやすいように「スーパーフレックス制度」を導入しています。

日本有数の製造業でありながら、私たちは従来のフレックスタイム制度に定められていたコアタイムを廃止しました。また従業員がそれぞれのライフステージごとに多様なニーズがあることを考慮し、 出産・育児のための育児休暇やその他の休暇も充実させています。このような柔軟なアプローチにより、従業員はキャリアのどの段階においても能力を最大限に発揮することができると考えています。

顧客志向に変える

私たちは、多様な人材が活躍できるコミュニティを構築し、顧客志向を追求する企業文化の醸成を目指し、これらの施策を推進しています。社内の意識調査では会社の将来に対する従業員の信頼度が5ポイントも上昇するなど、着実な成果につながっていますが、まだ道半ばだと感じています。

世界150カ国以上で約55,000人の従業員を擁するLIXILにとって、これは決して小さな変革ではありません。しかし、この変革を推進することで、私たちは人びとの生活を豊かにする革新的な製品を生み出し、持続可能な形で企業価値を提供していくことにつながると確信しています。

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